「はあ・・・良くやるな・・・」

俺は溜息をつきつつ紅葉を追い掛け回す千草をしみじみと眺めていた。

まあ、早い話また紅葉は破壊活動を行いそれによって風紀委員会に追い掛け回されている訳だ。

通常であれば運動音痴の紅葉が逃げ切れる筈は無いのだが紅葉の足には、かつてあいつが発明したジェットブーツが装着されている。

まあそう簡単には捕まらないな・・・

その思考は別の声に遮られた。

「あの・・・青児先輩尋問を続けたいのですがよろしいでしょうか?」

「なあ、菫ちゃん、どうして俺が捕まっているんだ?今回に関して言えば俺は完全に無関係なんだが」

「千草先輩の厳命で『紅葉の頼みの綱である青児を確保しておけ』との事で・・・」

勘弁してくれ・・・







「はあ・・・疲れた・・・」

結局、俺が解放されたのは門限ぎりぎりであった。

肉体的なものよりも精神的な疲労を感じつつも俺が部屋に入るとそこにはもはやお馴染みとなった、紅葉・緑・来海先輩・京子・菫ちゃんに加え、広瀬に千草までいた。

「何気に人数増えてるぞおい」

呆れ果てて俺はベットに腰掛ける。

「ここまでいると手狭だよね。絶対」

「緑、そう思うなら紅葉の部屋からの侵入は止めろ」

こんな所見付かれば俺は全男子生徒のリンチに合う。

「はあ・・・そろそろ部屋の改造行うべきか?」

五人から七、八人も入るとなればこの広さでは絶対狭い・・・

「すごいね〜せーじ君大工さんも出来るの?」

「と言うか違法改造でしょうそれって・・・」

先輩が感心して、京子が呆れる。

「じゃあさせーちゃん、いっその事壁全部取り壊して私の部屋と繋げるってのは・・・」

「やめ・・・」

「「「「「「絶対反対!!!」」」」」」

俺より早く全員の大絶叫が先だった。

「まあ・・・やらない方が良いよな・・・」

「そう言えばさ井上、あんたそんな改造『出来る』の?」

広瀬の言いたい事も判る。

『出来る』と『やれる』とは大きな違いがあるからな。

「ん?師匠から教わった。師匠ならそんなの簡単に出来るぞ一晩で」

「ああ、そうだよね〜せーちゃんのお師匠さんなら出来るよね〜」

この中でただ一人師匠を知っている紅葉だけがニコニコ笑っている。

「ああ、何しろあんな便利屋を創っただけあってまさしく『犯罪以外なら何でも引き受けます』を標榜しているからな」

そこに千草が聞いてきた。

「そう言えば青児の師匠とは一体誰なんだ?お前のそのコピー体質はその人から会得したのか?」

「俺がバイトしている何でも屋の所長さん。まあ、この体質は師匠から指摘を受けてわかったんだがな・・・ついでに言えば紅葉の師匠はそこの所長の奥さん」

そう言うと、京子が何か思い出したように俺に尋ねる。

「それって・・・あの山のような体格をした男の事?この前町内の運動会で裏方やってたらそんな人がいたんだけど・・・」

「ああ、そりゃ間違いなく師匠だ。そん時女の子も連れていただろ?」

「ええ」

「娘さんの良子ちゃんだ。たまには構ってやらないとなとか言っていたし」

そう納得しているところに、

「ねえ、井上。紅葉の師匠ってやっぱり紅葉と同等に凄い人だったりするの?」

「ん?由宇子さんは・・・ある意味紅葉以上だな。噂だとタイムマシンやら物質転送機やら凄い発明をしたって言うし・・・中でも極め付けは透明人間にする為の薬を元に戻す薬共々作ったっていうらしい・・ただな・・・爆発を良く起こすんだよ・・・紅葉の十倍は」

「は、ははは・・・なるほどね・・・」

「あっ、でも由宇子さんは紅葉よりは良識な人だぞ。この人が何でこんなマッドサイエンティストの弟子を持っているのか不思議になる位」

「うわっ、せーちゃん少し傷付いた」

「だまれ、ダイヤモンド製のハートを持った女が」

「あの・・・それで先輩は何時お会いになられたんですか?」

「ああ、最初の出会いか・・・そうだな・・・あれは丁度千草に会った直後か少し前だったかな・・・」






俺と紅葉がその便利屋『HELPS』を尋ねたのが事の始まりだった。

理由はその数日前、俺を含めた子供の集団が遊び場所にしていた廃ビルが取り壊される事となり、その為にそこに居ついた浮浪者やらを追い出す仕事にその便利屋の人間が来ていた。

その際に俺たちも追い出されたんだがその時の交換条件として新しい遊び場所を用意してくれるという事で巫女服を着た女性が受けてくれた。

しかし、その後待てど暮らせど返事は来ない。

そこで子供達を代表して俺と紅葉がその便利屋に向かう事となったのである。

「ごめんくださ〜い」

「おじゃましまーーーす!!!」

控えめに声を出す俺と元気良く大声を張り上げる紅葉。

「あれ?せーちゃん、誰もいないね」

紅葉の指摘通りその事務所内はがらんとしていた。

しかし、誰もいないと言うのは間違っていた。

なぜなら受付と思われるカウンターには

「すーーー、すーーー」

傍目から見て凄く幸せそうに一人の女性が眠っていたから。

「あのーすいません」

「すーーー、すーーー」

声を掛けても起きない。

「すいませーーん」

少し大きな声で掛けるが

「すーーー、すーーー」

まったく効果は無い。

「せーちゃん、せーちゃん。はいこれ」

不意に紅葉が何かを手渡す。

「おうっ・・・って、おい紅葉!!」

何の違和感無く受け取った俺は思わず、紅葉に怒鳴ったがそれも当然。

紅葉が俺に手渡したのは陣地の防衛で使う改造型水鉄砲だった。

「こんな威力のあるもの使えるか!!」

「えーーっでもこれくらいやらないと〜」

「ええい!!馬鹿かお前は!!」

そう口論していると

「んん・・・」

その女性が眼を覚ました。

「あ、あの・・・」

しかし、俺が声を掛けようとすると

「いらっしゃいま・・・あの〜すいませんうちにはたいしたお金はありませんが・・・」

何を考えていたのかとんでもない事をその女性・・・清水(当時旧姓小野寺)千彰さんは言ってくださった。






「まあ、そうなんですか〜じゃあ楓音ちゃんですね〜」

数分後誤解を解いてくれた千彰さんは俺と紅葉にジュースを出してくれた。

「もうちょっと待っててくださいね。そろそろ皆さんもうすぐ戻って来ると思いますから」

優しく笑いかけると、そのままカウンターに戻ったがすぐに・・・

「すーーー、すーーー」

「また寝ちゃったねせーちゃん」

「ああ・・・」

まあ、どうする訳にも行かなかったので俺達は大人しく部屋で待つ事にした。(ちなみに紅葉も祝勝な事に大人しくしていた)

やがて、誰かが階段を上がってくる。

誰か帰ってきたようだと思っていると、ドアが開きそこに当時子供だった俺が見上げる程大きな男性が現れた。

「うわーーっせーちゃん大きいね」

「あ、ああ・・・」

唖然としながらその人を見上げる。

(あれ?君どうしたんだい?)

「あの・・・実は・・・」

俺はその人に事情を説明する。

(なるほど・・・それは葉賀君だな。それで君はそのことを聞きに来たのかい?)

「はい」

(わかった。じゃあ早急にそれを行うと・・・)

「ねえねえ大輔さん」

不意にその陰からひょっこりと小柄な女性が顔を出す。

(ん?どうかしたのか由宇子)

「大輔さんその子と話せるの?」

それと同時に俺は

「ねえせーちゃん」

「なんだ?紅葉」

「何独り言言っているの?」

「(は?)」

俺と大輔さんは同時にはもった。







それから大変だった。

俺が大輔さんと話せる(意思の疎通が行える)事を知るやいなや事務所の全員が俺を取り囲んだ。

大輔さんが極端なほど無口でコミュニケーションを取れるのが由宇子さん以外いない事をこの後知る事になる。

その為、遊び場所を探す依頼は事実上無料となり、その代わり俺は暇な時で良いので大輔さんの通訳を行う羽目となった。

無論バイト料と称し小遣いや飲み物、菓子をその都度貰う事にもなったのは子供心においしかった。

その後、俺は定期的に『HELPS』に遊び・・・いや、お手伝いに行き、大輔さんの通訳を行う傍ら色々な事を教わり自然に師弟の間柄となった。

また俺の後をついてくる紅葉も事務所内で様々な発明と爆発を繰り返す由宇子さんに引っ付いている内に由宇子さんの助手を務め、やはりこちらも、自然に師弟となった。







日曜日、俺はなぜか道場にいた。

と言うのも、その話に加えて師匠の逸話を聞いた菫ちゃんと千種が『手合わせしたい』と申し出てきて、師匠に無理言って時間を作って貰ったのだ。

で、結果はといえば二人の完敗。

もうぐうの音が出ないほどの。

いやはや、まさか二人同時の攻撃を身じろぎせず受けきった時には本気で驚いた。

さらに千草の魔術を正拳突きで迎撃までしてくださった。

何しろあの人、ダイヤを拳で砕くわ、銃弾素手で受け止めるといった逸話を持つ、人間の領域軽く超えた超人だから。

嘘か真か知らないが、この便利屋を開く前、地球最強を目指して世界各地で修行していたとか言うし。

(もうとっくの昔になっているような気もするが)

その実力は未だ衰えを知らずと言った所だろう。

(え〜っと、青児君少々やりすぎたかな?)

師匠は頬をポリポリかきながら俺に言う。

「いえ、手を抜けばむしろ怒るますから。ありがとうございます、お手数かけました」

(ああ、それと話は変わるけどどうだい?以前話したうちに就職すると言う話は?)

「えーーっと・・・一先ず考えておきます」

(いい返事期待しているよ。あっそうだ、それと申し訳ないけど夏休みに入ったら少しうちに詰めてくれないか?)

「どうかしたんですか?」

(ああ、実は今泉君と、清水君、胡桃沢君が奥さん達連れて旅行出る事になったから人手が少なくなってね)

「ありゃ、それはまた重なった状態で」

(ああ、だから参っているんだよ)

今言った、今泉徹さん、清水和弘さん、胡桃沢拓海さんと言うのは『HELPS』創設期からいるバイトの人で今では正社員として、『HELPS』の実働、事務の中核に位置する人達だ。

で、徹さんは同じくここで働いている葉賀(旧姓)楓音さん、和弘さんは小野寺(旧姓)千彰さんと、数年前に結婚。

拓海さんは早河恵さん、そしてもう一人涼谷詩織さんとの同棲状態を続けているとの事だ。

(あれほど温厚な性格の人が二股と言うのは信じがたいが徹さんの話だと『あいつが一番やばい』との事だ)

「どうしたんですか?師匠。普通だったらあの三人の休暇を重ねる事なんてしないのに・・・」

(いや、俺もそのつもりだったんだが・・・楓音君達に押し切られてね。それと、もしよければ君の友人も連れて来てはくれないか?バイト代は弾むから)

「あ〜わかりました。暇な時にでも数名引き連れて来るとします」

(じゃあ頼むよ)

そう言って大輔さんは道場を後にした。

その後俺は気絶している二人を背負って寮に帰る事になった。

それ故、男子生徒からは英雄じみた視線を送られ、風紀委員からは怨敵の如く追い掛け回される事になる。

こうして俺は夏休みの期間『HELPS』でバイトの日々を送る事となるが、それが更なる大騒動の火種になるとは思いもよらなかった。








後書き

   自分で考えて出してみました。
   このとんでもない師弟の誕生を。
   『がくパラ!!』やった時から気になっていたんですよ。
   どこから接点が繋がって師弟になったのかと。
   そこで、『わーきんぐ』での幽霊ビル騒動と大輔と意思の疎通が青児も出来たのではと思いこうなりました。
   時間列としては『わーきんぐDays』の六〜八年後を『ガクぱら!!』としてみました。
   (実はまだこの二つは同時進行なのか数年後なのか迷っていますが、この話の中ではこう言う事で)
   一発ネタのつもりでしたがなにやら続くらしくなってしまいました。
   まあ、そこは考えたりしてみます。

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